2025年4月17日木曜日

絵で見る「世界遺産」:土司遺跡群(Tusi Sites)ー 中国

Hailongtun (海龙屯)

**土司遺跡群(Tusi Sites)**は、中国の少数民族地域において、中央王朝が設置した「土司制度」に基づいて統治を行っていた政治・行政・文化の中心地の遺跡群です。

この制度は元・明・清の時代に存在し、少数民族の首長(=土司)を地方の統治者として中央王朝が公認・管理する独自の自治制度でした。
この制度の下で、民族的・文化的多様性を尊重しながら国家の統一を維持した事例として、**2015年にユネスコ世界遺産(文化遺産)**に登録されました。


Tusi Yamen (孟连土司衙门)

登録された3つの構成資産

  1. 老司城遺跡(湖南省 永順県)

    • 明・清時代の土司王の居城跡

    • 城壁、住居跡、水路、儀式用建物などが残る。

    • ミャオ族とトゥチャ族が暮らした地域で、民族文化と統治機構が融合した都市遺構。

  2. 貞豊土司城跡(貴州省 貞豊県)

    • トン族を中心とする地域で、軍事・政治・宗教の拠点として発展

    • 山間に築かれた堅固な城郭や祠堂(祖先を祀る施設)が見どころ。

  3. 唐崖土司城跡(湖北省 咸豊県)

    • 元代に設置され、明代に最盛期を迎えたトゥチャ族の土司都城

    • 城門、宮殿、墓地、石碑などが保存され、当時の都市計画や儀礼制度が反映されている。


Tangya Tusi Fortress (唐崖土司城址)

土司制度とは?

  • 中央政権が辺境地域を直接統治するのではなく、地元の有力者を「土司」に任命して間接統治する制度

  • 土司は世襲で、軍事・司法・税制・宗教などの権限を持ちつつ、中央政府に忠誠を誓っていた。

  • 民族多様性の中で安定した支配を築くための、伝統的な統治モデルとされる。


Laosicheng (老司城)

世界遺産としての価値

  • 民族自治と中央集権の折衷的統治モデルを示す貴重な歴史的証拠

  • 少数民族の文化・宗教・建築と、王朝の統治制度が融合した空間構造

  • 中国だけでなく、広く東アジア地域の統治史における重要な制度遺産と評価されている。


Tangya Tusi Fortress (唐崖土司城址)

現在の状況と観光

  • 各遺跡には保存・修復された建築物や発掘成果を紹介する展示館があり、観光地として整備が進む。

  • 土司の末裔とされる人々や地元民族による伝統芸能・工芸・祭祀なども見学できる機会がある。

  • 土司文化は中国の少数民族政策と地域文化保護の象徴としても注目されている。


まとめ

土司遺跡群は、多民族国家・中国における「統治と共生の知恵」を今に伝える貴重な世界遺産です。
辺境地における自治と中央統治のバランスを保った制度の遺構は、政治的にも文化的にも独自性に富み、地域の伝統とアイデンティティを語る歴史的証言となっています。

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