2025年11月24日月曜日

10/25/2025 台湾帰省旅行 九日目・台北から沖縄 - Taiwan Homecoming Trip: Day 9 - Taipei to Okinawa

 

台湾9日目――空はまるで雨が降ったりやんだりの気まぐれ天気。そんな中、「今日、ほんとに飛行機飛ぶよね…?」という一抹の不安の中で桃園空港へ向かうのであった。雨よ、頼むから“離陸キャンセル”だけは押さないでくれ…!


淡水から桃園国際空港までの道のりは――まずMRTレッドラインで「台北駅」へ、そこからAirport Expressに乗り替えで、所要時間は約1時間45分。でももう9日目の私は違う。初日は「路線図って何!?」レベルだったのに、今や台北MRTを乗りこなす達人。乗り換えも余裕の表情でスチャッと決める。

桃園国際空港に到着!出国検査もスムーズに突破し、「あれ?私って実は旅のプロ?」と勘違いしそうなくらい順調。そしてここから――人生初の沖縄へ、いざ出発!心の中ではドラマの最終回みたいに「See you, Taiwan!!」と手を振りつつ、実際の私は重い荷物を背負いながらゲートへ小走り。台湾よ、また会う日まで!また5日後に会いましょう~。


桃園空港から那覇空港までは、なんと約1時間半弱。……え、ちょっと待って。淡水→桃園空港より短くない!?「海外旅行!」って気合い入れてきたのに、体感としては「ちょっとコンビニ行ってくるわ」レベルの距離感。沖縄、想像よりめちゃくちゃ近いじゃん。これはもはや“ご近所さん”扱い。


そしてついに――沖縄に上陸!人生初の沖縄、そして日本自体もなんと15年ぶり。その結果、気持ちはこんな感じ。「ただいま日本!」+「はじめまして沖縄!」= 謎のハイブリッド感。なんか、実家に帰ってきたのに家具の配置が全部違う…みたいな不思議さ。右も左も分からない沖縄だけど、とりあえず言葉は100%通じるから――まぁ、最悪迷っても「すみませ〜ん!」って言えばどうにかなるでしょ。


那覇空港から無事にゆいレールに乗車!はい、もう“知らない土地で電車に乗る恐怖”なんて卒業しました。私レベルになると、初めての街でもスッと改札を抜けて「あ、こっち方面ね」と知ったかぶりできる域に到達。そして車内をふと見上げると――そこには堂々と輝く広告、「こんにち…うんこ?」まさかの初沖縄、初ゆいレールでウン◯に見守られるとは思わなんだ。そんな心のツッコミを胸に抱えながら、これから5日間お世話になるホテルへGO!

ついに今回の拠点、「アパホテル(那覇松山)」に到着!よし、チェックインして沖縄ライフ開幕――と思いきや。ホテルへ向かって歩いている途中、何度も聞こえてくる謎の声。「いい子いるよ〜!」「寄ってかない〜?」え、私そんな“スカウトされそうな雰囲気”出してた!?後で知った衝撃の事実――この松山エリア、飲み屋&ウフフ系のお店がズラリと並ぶ、沖縄でも屈指の“夜が濃い”街だったらしい。治安もワースト級との噂。そりゃ声もかけられるわ。でも私、そういう世界とは無縁なので大丈夫。(たぶん。いや、きっと。いや絶対。)というわけで今日はビビりながら早めに撤退。明日からの沖縄大冒険に備えて――即・就寝!

10/24/2025 台湾帰省旅行 八日目・淡水紅毛城、北投、Taipei 101 - Taiwan Homecoming Trip: Day 8 - Fort San Domingo, Beitou, Taipei 101


Hobe Fishing Harborから見る淡水川

台湾8日目。台風のピークは過ぎ、強風も次第におさまってきたものの、天気は依然として雨が続いていた。明日からは沖縄へ向かう予定があるため、台湾で観光できる時間も残りわずか。そこで今日は、淡水で歴史に触れられる「紅毛城」、温泉地として知られる「北投」、そして台湾を象徴する存在ともいえる「Taipei 101」を巡ることにし、盛りだくさんの一日を過ごすことにした。

「紅毛城(Fort San Domingo)」

今回まず向かったのは、淡水にある「紅毛城(Fort San Domingo)」。ひと言でいうなら——「歴史、詰め込みすぎのスーパー要塞」。なんと17世紀から現在まで、スペイン → オランダ → 清朝 → イギリス → 日本 → アメリカ/オーストラリアと、まるで“世界リレー”のように次々と支配&利用され続けてきた場所。この経歴だけ見ると、「転職回数、多すぎじゃない?」と言いたくなるほどの多国籍キャリア。“歴史ドキュメンタリーの中を散歩している”ような気分になり、思った以上に勉強になるスポットだった。


「紅毛城(Fort San Domingo)」をあとにし、「北投」に向かう前にちょっと寄り道。せっかくなので「淡水」の街を探索することにしました。この淡水という町、川と海に面しているせいか――“景色よし・歴史よし・食べ物よし”の三拍子そろい踏み。週末にもなれば観光客で大にぎわいになる人気スポットで、雰囲気としては「歩くだけで楽しめるテーマパーク」。しかも今いる場所からめちゃくちゃ近いのに、楽しめるポイントがゴロゴロしていて、「ここ、近場なのにポテンシャル高すぎない?」とツッコミたくなるレベル。移動前の寄り道のつもりが、淡水だけで1日使える説が濃厚に浮上した瞬間でした。

ここから一日が長丁場になることを見越して、まず立ち寄ったのは「台灣G湯-淡水總店」。作戦名は――「まずは腹を満たせ。」先日あまりにも美味しすぎて感動した「雞肉飯」。その記憶が忘れられず、ここでも迷わずオーダー。そしてひと口。「はい、優勝。」やっぱり美味しい。ブレがない。裏切らない。雞肉飯、どこで食べてもクオリティ高すぎでは?

ここから向かったのは、「淡水」からMRTで約30分。温泉地として名高い――「北投」!歴史でも歩き回り、胃袋もフル稼働させたあとは、いよいよ本日のテーマが発動。「身体、リセットしたい。」そう、まずは温泉で疲れを解きほぐして、自分自身を癒やすターンに突入。観光もグルメも大事だけど――とりあえず今は、温泉がいちばんのご褒美。

「北投」駅を出てまず目に飛び込んでくるのは——日本統治時代につくられた、レトロ感満載の“昔の駅舎”。今は温泉地の案内所として活躍中で、建物自体が、「ようこそ北投、温泉の歴史はここからだよ」と無言で語りかけてくる感じ。駅を降りた瞬間に歴史を浴びられるあたり——北投、いきなり温泉じゃなくて“雰囲気”で先に温めてくるタイプだった。

そして最初に向かったのは「北投溫泉博物館」。正直、「温泉の博物館って、一体何を展示するの?」と半信半疑だったのですが——入ってみてびっくり。館内では「北投」が温泉地として歩んできた歴史をしっかり学べるうえに、建物自体がどこか温泉情緒をまとっていて、まるで当時の雰囲気にタイムスリップしたような感覚に。さらに休憩できるリラックススペースまであり、「え、ここ…想像以上に楽しめるぞ?」という予想外の発見。

次に向かったのは、湧き出す温泉が見られることで有名な「地熱谷」。…なのですが——正直、事前情報ゼロ。「地熱?谷?つまり何?温泉がある渓谷?蒸気のテーマパーク?」と頭の中はクエスチョンマークだらけのまま現地へ突入。どんな景色が待っているのか、癒しなのか、恐怖なのか——まったく想像できないドキドキ感を抱えながら向かった。

おお、着いてみてようやく理解。「あ、ここ…巨大な“温泉の源泉ビュー”スポットなんだ。」この場所から、もくもくと湯気が立ち上り、まるで大地が「はい、ここから湧いてます!」と自己申告しているかのよう。もちろんここで温泉に入れるわけではないのだけれど、立ち上る蒸気と熱気がじんわり伝わってきて、“露天風呂の入口だけ味わってる気分”。見ているだけなのに、なぜかちょっとリラックス。


時間の都合上、「北投」では“温泉を眺めて温泉気分だけ味わう”という体験で終了。名残惜しさを背中に引きずりつつ——次の目的地は、ドドンと「Taipei 101」!温泉でほっこりから、いきなり超高層ビルへ。この流れ、まるで「癒し → 近未来」というジャンル急転換ツアー。ここからは台湾の象徴に一直線!

MRTで「Taipei 101」へ向かう途中、たまたま乗り込んだ車両がなんと——北投温泉テーマ車両!車内の半分くらいが温泉推しのデザインで、壁も床も広告感満載。まるで、「走る温泉PR館」といった雰囲気。電車なのにほんのり温泉気分。移動中の思わぬ小さな癒しとなった。


ついに今日の最終目的地へ到着。「Taipei 101」!!!その巨大なタワーを目の前にした瞬間、思考がフリーズ。「デカっ!!!!!」高さも迫力も桁違いで、近づけば近づくほど「これ、建物?武器?」ってレベルの威圧感。そして周りを見渡してさらに衝撃。めっちゃ未来。光るビル、ピカピカの街並み、オシャレすぎる空気感。「ここ本当に台湾!?間違えて宇宙都市に来た?」さっきまで温泉に囲まれてたのに、急にサイバーパンク感100%の近未来エリア。台北の中でも別次元すぎて、思わずひと言。「ここ、どこ。」しかしその違和感すら含めて圧倒的。

Taipei 101からの夜景

Taipei 101の圧にやられたその瞬間、心の中でスイッチが入った。「もうこうなったら——登るしかない!!」そして展望台の扉が開いた瞬間——夜。闇。光。絶景。眼下に広がるのは、台北まるごと宝石箱みたいな夜景!!!街がキラキラ光っていて、光の川が走っていて、ビルが星みたいに瞬いていて——思わず心の声が飛び出す。「台北……すごっ……!!!」

86階の絶景に感動しながら、ふと脳内に浮かんだ欲望。「もっと上なら…もっとスゴい夜景が…!」その甘い期待に背中を押され、別料金をシュッとお支払い。いざ、101階・最上階へ!そして扉が開いた瞬間――夜景、ほぼ一緒。さらに追い打ち。スペース狭い、店もない、土産もない、・やることゼロ。ここで心の結論が静かに確定した。「別料金、必要なかった。」


【謎の巨大物体】まさかのラスボス、出現。展望台を降りる途中、視界にドーン!と現れた巨大な黄色い球体。説明によると——チューンド・マス・ダンパー(調心質量阻尼器)。台風や地震の揺れを抑えるためにビルの中に仕込まれた超重要装置らしい。しかも驚愕の事実。「この装置を見られるの、世界でここだけ。」え、そんな貴重なん!?夜景よりレアなん!?そのインパクトに圧倒されながらじっくり眺めてみると——めちゃくちゃデカい。めちゃくちゃ重そう。めちゃくちゃ存在感バケモノ級。でも、そこでふと湧き上がる純粋な疑問。「……これ、どうやってここに運んだ?」考えれば考えるほど謎は深まるばかり。揺れを抑える装置なのに、脳内は疑問で揺れまくり。

長い階層を降りて、ようやく地上へ帰ってきた。ふと振り返ってみる。そこには——霧に包まれ、光をまとった Taipei 101。さっきまで中にいたはずなのに、外から見るその姿はまるで別人。「え…さっきよりカッコよくなってない?」夜の霧がライトアップをまとって、タワー全体が幻想的に輝いて見える。夜の101、反則級の美しさ。そして気づく。今日のスタートは、淡水の「紅毛城」。そこから温泉地の「北投」、そして「 Taipei 101」。全部合わせてフルコース。そして最後に心に残ったのは——「無事に終わった。最高だった。」そうして台湾観光のロングラン1日は、静かに幕を下ろしたのであった。

2025年11月19日水曜日

10/23/2025 台湾帰省旅行 七日目・九份老街、瑞芳、猴硐貓村 - Taiwan Homecoming Trip: Day 7 - Jiufen Old Street, Ruifang, and Houtong Cat Village

 

台湾滞在7日目。ここから物語は、台風フル稼働中の大逆転編に突入する。

「昨日がピークでしょ?」という希望的観測は、雨音とともに秒速で粉砕。空は本気、雨はドシャドシャ、風はビュンビュン。台風さん、まだ現役。むしろ絶好調。――と、その瞬間。脳内に電球がピカーン。

「この天気……観光地、ガラ空き説あるんじゃ?」

普通なら引き返す場面で、なぜか前進を選ぶ謎の判断力。冒険スイッチ、強制オン。
目指すは大人気スポット 九份&十分。いつもなら人・人・人で身動き不能なあの場所に、
台風を(半ば強引に)味方につけて突撃する無謀作戦だ。もちろん、旅には鉄の掟がある。予定通りに進んだら、それは旅じゃない。

嵐の中、電車は動くのか?バスは来るのか?そもそも人は無事に辿り着けるのか?

台風 vs 観光客ゼロ説。勝つのはどっちだ――。


まずは淡水駅から――「九份への壮大(になる予定の)旅」が、ひっそりと幕を開ける。

目指すは台湾交通のラスボス、台北車站。地下も地上も通路も無限に広がる、あの迷宮だ。
無事に到着できた時点で、すでに小さな勝利。

台北車站に着いたら、息つく間もなく地上へダッシュ。駅から歩いてすぐのバス乗り場が、次なる関門。そこで待ち受けているのが――九份行きの切り札、「Taiwan Tourist Shuttle 965」

これに乗れさえすれば、あとはバスに身を預けるだけで九份へ一直線!……のはずだった。



【事件発生】――早く着きすぎた。

時間に余裕を持って行動した結果、時刻表を見た瞬間に現実が殴りかかってくる。「……発車まで、めっちゃ時間あるやん。」

まさかの「待ち時間ミッション」強制発動。このまま台風直撃の雨風に打たれながら、バス停で人型オブジェと化すのか――。そのとき、救世主のように視界に入ってきたのがバス停の真正面にドンと構える建物。

「國立臺灣博物館 鐵道部園區」

調べてみると、日本統治時代に建てられた歴史的建造物が残る、想像以上に“渋い”スポットらしい。――というわけで即決。

「九份行きバス待ち」からの、 「歴史博物館ツアー」へ急カーブ。

完全に予定表に存在しない、想定外サイドクエスト突入。館内には貴重な展示がズラリ。気づけば、「ちょっと雨宿りのつもり」が「あれ、普通に勉強になるぞ?」に進化し、いつの間にか知識ゲージがじわじわ回復。

ただの待ち時間だったはずが、有意義すぎる寄り道イベントに昇格。

National Taiwan Museum Railway Department Park
國立臺灣博物館鐵道部園區
No. 2, Section 1, Yanping N Rd, Datong District, Taipei City, Taiwan 103


いざ、965バス出撃!博物館という想定外の寄り道クエストを無事クリアし、ついに本命ステージへ突入――「965バス、無事乗車ッ!!」

ここから約1時間半、九份までのロングドライブが始まる。座席に腰を下ろし、ひと息つきながら心の中でつぶやく。「よし、あとは乗ってるだけのイージーモードだな。」――その油断、秒で回収。

バスが川沿いに差しかかった瞬間、車窓いっぱいに広がった光景が、完全に想定外。

水位MAX、暴れ狂う濁流。

もはや“川”というより、「今にも何かを持っていきそうな自然の意志」。その迫力に、背中をゾワッと冷たいものが走る。「あ、これ…今回の台風、本気だわ。」観光バスに乗っているはずなのに、気分はなぜか災害ドキュメンタリーの現場レポーター。

果たしてこの965バス、嵐の中の山道を無事に駆け抜けられるのか――?九份への旅は、いつの間にか“観光”から“耐久イベント”へと姿を変えていた。


ついに到着ッ!!天空の街・九份、見参!

バスを降りた瞬間、視界が一気に開ける。見下ろせば――眼下にドーンと広がる、圧倒的スケールの景色。思わず口から漏れたのは、「……これ、ポストカードの中やん。」

写真で何百回も見たはずなのに、実物は別格。情報量が多すぎて、脳が一瞬フリーズする。もしこれが快晴だったら――美しさが限界突破して、感動のあまりその場で人生2周目に入っていた可能性すらある。

台風コンディションですらこの破壊力。晴れの日の九份がどれだけ危険な存在か、むしろ想像してはいけないやつだった。

それでも断言できる。この景色、圧倒的に、九份。



九份に到着して深呼吸ひとつ。そして、いよいよ本丸――「九份老街」の入口へ。そのアーチをくぐった、まさにその瞬間――世界、切り替わった。

体感的には、「現実世界」から「九份ワールド」へ瞬間転送。

外では台風が本気モードで雨を叩きつけているというのに、老街の中はまさかのフル稼働
細い路地には、人・人・人。そして両脇の店から溢れる灯りが、雨に濡れた石畳にキラキラ反射している。このコントラストがもう反則。嵐?関係ない。ここは今、九份。気づけばテンションは自動的に上限突破。心の中で静かに、しかし力強く宣言する。

「――九份探検クエスト、開始。」

もう後戻りはできない。この迷宮、最後まで味わい尽くすしかない。

ここが九份老街――まさかの徒歩オンリー縛りステージ

道はとにかく細い。もはや人間専用すきま通路。その両脇に、食べ物屋&土産屋がぎゅうぎゅう詰めで、誘惑レベルは常にMAX。しかも台風コンディションなのに、人・人・人。そして最大の敵は足元。石畳×急坂×雨=高難度すべり台。油断すれば即スライディング。

九份は、「絶景・グルメ・雨天アスレチック」全部盛りの観光地だった。

今や九份といえば、人!グルメ!インスタ!――の超人気観光地。……なんだけど。実はそのルーツ、めちゃくちゃ渋い。

九份はもともと、石炭で栄えたガチの鉱山タウン。観光途中でふらっと立ち寄った鉱山跡の入口で、空気が一瞬にして切り替わる。さっきまでお祭り騒ぎだった老街とは別世界。ここだけ、歴史スイッチON。

かつてこの場所で、石炭を求めて人が働き、町が熱気と夢で満ちていた――そんな過去が、静かに、でも重く迫ってくる。

九份は、ただの映えスポットじゃない。グルメを楽しみに来たはずが、気づけば歴史まで味わっていた。まさかの、深掘り系観光地だった。

鉱山入口のすぐそばには、かつて採掘した石炭を運ぶために使われていたという歴史的トンネルがドーンと残っていた。中を覗いた瞬間、思わず立ち止まる。

狭っ。

車一台がギリギリ通れるかどうかの幅。しかも照明ほぼゼロで、視界はガチ暗闇モード。壁も天井もゴツゴツ剥き出し。雰囲気は完全に「今にも崩れそうだけど、特に気にしないでね?」。観光地の延長線にあるとは思えない緊張感。これはもうトンネルというより、勇気を試される入口。

正直――怖すぎ。


あの炭鉱の入口とトンネル、実は九份のにぎやかな老街からけっこう歩いた先に、ポツンとある。つまり――そこそこ遠い。普通に疲れる。

そのおかげか、観光客の姿はほぼゼロ。さっきまでの人混みが嘘のように、あたりはシーン……。聞こえるのは、風の音と自分の足音だけ。空気もしっとり落ち着いていて、完全に別世界。ここは映えもBGMもないけれど、九份の“裏側”と“過去”に静かに向き合える場所。

にぎやかな老街の陰に隠れた、九份の穴場中の穴場。

九份をひと通り歩き回り、「いや〜満喫したわ!」と完全に勝者の顔で坂道を下っていた、その時。――脳内に緊急アラート。

「阿妹茶樓(あめいちゃろう)!!!」

そう、『千と千尋の神隠し』のモデルって噂の、あの超・有名スポット。まさかのスルー寸前。これはもう、「九份に来て阿妹茶樓を見ない=ラーメン頼んで麺だけ残す罪」レベルでアウト。

血の気が引く。全力で周囲を見渡すと、ちょうど日本人観光客を発見。心の中で土下座しつつ場所を尋ね、半ダッシュで突撃――

無事、阿妹茶樓に到着ッ!!

建物を目の前にした瞬間、「あ、これ絶対ネットで100回見たやつ。」感動、即・最大出力。

これで九份観光、コンプリート達成。満足度100%、悔いゼロ。

さぁ次のステージ、「十分」へGO——!!


次なるステージ「十分」へ向けて、意気揚々とバス停に到着。スマホ片手に運行スケジュールを確認――その瞬間、思考がフリーズ。

「次のバスまで……1時間半。」

いやいやいやいや。バスが来なきゃ移動不可。完全に足を封じられた状態異常。ここで取れる選択肢は、ひとつ。

「九份老街、まさかの逆戻り。」

さっきまで「満喫したわ!」とドヤ顔で締めた場所へ、何事もなかった顔で引き返す。こうして九份編は、予想外の延長戦に突入。

九份、まさかの2周目。果たしてこのまま、ちゃんと十分へ辿り着けるのか――?


時計をにらみ続けること、1時間半。風に打たれ、雨に濡れ、HPより先に心が削られていく。――そのとき。「え、あれ…?来た…?来たよね!?」視界の奥に現れたバス。乗り込んだ瞬間、もうそれだけでエア優勝。

こうしてバスは、ゴトゴトと山道を下っていき、たどり着いたのはふもとの町――「瑞芳(Ruifang)」

ここでバスとはお別れ。次なる移動手段は、電車

瑞芳 → レール → 十分。

ステージはついに、タイヤからレールへ切り替わる。今度こそスムーズに行くのか?それとも、まだ何か仕込まれているのか――?旅はまだ、油断させてくれない。

瑞芳駅に到着し、ついに念願の「平渓線っぽい電車」に乗車!「よし!あとはレールに身を任せるだけ!」肩の力も抜けて、完全に安心モード。――その瞬間。ふと目に入った行先表示。「ん?……十分じゃないやん!!!!

気づいた次の瞬間、反射神経だけで緊急ジャンプ退避。改札へ猛ダッシュし、駅員さんに直撃質問。「十分って、どう行けばいいですか!?」返ってきた答えは、あまりにもシンプルで残酷。「電車じゃ行けません。バスに乗ってください。」

……え?バス?Google Mapでは電車って言ってたけど?

「情報源:Google」vs「現場のプロ:駅員」

まさかの矛盾バトル勃発。理由は不明。台風による運休か、そもそもルート違いか――。ただ一つ、確かな事実がある。

今の俺、完全に迷子。

こうして、期待に満ちた“レール旅”は秒速で終了した。


駅員さんの「バスで行ってね」という神託を信じ、即・時刻表チェック。――その瞬間、思考停止。「次の十分行き……2時間半後。」長っ。しかも外はすでに夕暮れタイム突入。黄昏+台風+2時間半=「十分老街?無理ゲー確定。」

ここで潔く判断。目的地は断念し、プランB――瑞芳観光へシフトチェンジ。

……が。歩けど歩けど、なんもない。ネオンなし。人影なし。店、ほぼ閉店。田舎だからなのか、台風のせいなのか、その答えを知っているのは風だけ。

それでも一つだけ確かなことがある。瑞芳の町は、想像をはるかに超える静寂モードに突入していた。


観光的には、ほぼ息していない瑞芳の街。人、いない。店、暗い。活気、ゼロ。完全に詰んだ空気の中――駅前で、キラッと光る希望を発見。ミニ夜市。

規模は小さい。でも今の自分には、オアシス度120%。とりあえず腹ごしらえ。もち米の香りに心を救われつつ、スマホで現実逃避…じゃなく情報収集。

――そのとき、画面に現れた文字。「猴硐(ホウトン)……猫の村」……猫の村?しかもすぐ隣?今ここから行ける

その瞬間、十分ルート:完全封鎖。猫ルート:大開通。運命がドアをノックしてきた。答えは一択。

「行くしかないだろ!!!」

こうして旅は、想定外の大転換。次なる目的地は――「猴硐(ホウトン)」。まさかの“猫の村クエスト”、爆誕!!

さっきまで、十分にフラれてしょんぼりムードだった旅。しかし今回は――電車、普通に来た。普通に乗れた。普通に着いた。もはやそれだけで感動。ハードル、完全に地面スレスレ。

そして降り立った駅名は……「猴硐(ホウトン)」そう、噂の――猫の村ッ!!!

急きょ決まった目的地なのに、駅に降りた瞬間からテンション爆上がり。期待が胸の中で大暴れ。「どこ見ても猫!触れても猫!写真撮っても猫!」そんな理想郷が、この先に広がっている……はず!!

ついに降り立った、憧れの地――猫の聖域・ホウトン!

胸はワクワク、顔はニヤニヤ、テンションはすでに猫カフェ満席状態。……だった、その瞬間。周囲を見渡して、フリーズ。

暗っ。いや、マジで真っ暗。街灯どこ?ってレベルのブラックアウト級の闇

さらに追い打ち。人影ゼロ。気配ゼロ。まるで村全体がログアウトしたかのような静寂。「え、ここ猫の村だよね?猫どころか、人すらいないんだけど!?」想像してたのは、猫わんさか・ゴロゴロ・にゃーにゃーの楽園。現実は、ホラー映画の冒頭5分

さっきまでテンションMAXだった自分に、そっと声をかけたい。「落ち着け。ここ、想像とだいぶ違うぞ。」猫はどこだ!?この村、生きてるのか!?そして私の期待は、ちゃんと報われるのか――!?

真っ暗なホウトンの村を歩き回りながら、心のどこかでこう思っていた。「大丈夫、大通りに行けば賑わってるはず!」しかし——進めど進めど、シーーーーーン。聞こえるのは自分の足音と風の音だけ。

そんな中、ふと視界の端に動く影。猫。また歩くと——猫。さらに別の角を曲がると——猫。「猫はいる!!!!」しかし!!!!!店は全部死んでいる!!!!観光施設、閉店。お土産屋、閉店。飲食店、閉店。村のテンション、限りなく0。調べた結果、どうやら台風のせいで観光客がほぼ来なかったため、村ごと全店オフライン。

かつてSNSで見た猫×観光客×ワイワイな“猫の街”のイメージはどこへ。期待はズタズタ、でも心の中でひとこと。「今日は猫より静けさに癒されたわ……」


誰もいないホウトンの村をあとにして、そっと台北へ戻ることにした。人も店も灯りもない猫の村。まるでエンディング後のステージのような静けさの中で、今日一日の出来事がじわっと頭に浮かぶ。

予定では――九份 → 十分のはずだった。蓋を開けてみれば――九份2周 → 瑞芳静けさ → 猫村ホラー。もはや台本を書いたのは台風。しかし振り返ってみると、全部、“悪天候だからこそ出現したレア体験”。思い通りにいかない。

でもそれこそ旅の醍醐味であり、スパイスであり、「予定通り」が負け、「予想外」が勝つ日もある。そして不思議なことに、胸の奥にひとつの新しい感情が生まれていた。「次こそ晴れの日に、もう一度来たい。」そう思えた時点で、今日の旅はすでに成功だったのかもしれない。

結論——この一日、“十分”以上に価値あった。

2025年11月18日火曜日

10/22/2025 台湾帰省旅行 六日目・台風通過 - Taiwan Homecoming Trip: Day Six - Typhoon Passing Through

 

台湾6日目。窓を開けて外を見た瞬間、思わず本音が漏れた。「……え、ここ台北?それともウォーターパーク?」

台風は遠慮という言葉を完全に忘れ、絶賛フルスロットル。風はビュンビュン、雨はバシャバシャ。視界の端では看板が倒れ、「今日は大人しくしとけよ」と全力で警告してくる。これを見た瞬間、判断は一瞬だった。

――今日は外出したらダメな日だ。

無理は禁物。勇気ある撤退こそ、旅上級者の選択である。こうして、せっかくの旅行にもかかわらず、まさかの自室ステイ確定。外では台風が大暴れしているが、部屋の中ではこちらも負けていない。発動したのは、“静寂という名の引きこもり”。

朝ごはんは、昨日のうちに確保しておいた 粽子(ちまき)。外では台風が本気を出しすぎて、風と雨が合体し、もはや世界がドラム式洗濯機に放り込まれている状態だというのに――家の中では静かに、「モーニングちまき会」が開幕した。

ひと口、パクッ。……え?うっま。

驚きのあまり、台風の突風よりも速いスピードで二口目に突入。もはや迷いはない。この瞬間、確信した。「台湾、ご飯ガチャSSR率、体感100%。」

嵐に閉じ込められた朝に、まさかの大当たりちまき。“外は大荒れ、心はほっこり”という、あまりにもシュールで、しかし最高に台湾らしい朝が、こうして静かに(胃袋だけは騒がしく)始まったのであった。

今日は完全に「何もしない・大人しくする日」の予定だった。予定ゼロ、行動力ゼロ、やる気は雲より高く飛んでいって行方不明。体はベッド、心は省エネモードである。……が、念のため近所の市役所に電話してみた。返ってきた答えは、まさかの一言。

「通常どおり開いております!」

え、強すぎない?外は完全に「台風 vs 地球」の最終決戦フェーズなんですけど?

その瞬間、頭の中で鳴り響くミッション開始BGM。「用事を片付けろ」

さっきまで“ゴロゴロ至上主義”だった私に、まさかの出動要請がかかる。完全静止モードから、強制的にアクティブへ。セーブ不可、リトライ不可。

こうして、「今日は絶対に動かない日」のはずが、気づけば台風の中、市役所へ向かうルートが確定。これはもう自由意思ではない。強制クエスト発生。

市役所に到着してみたら――ガラ〜ン。人がいなさすぎて、思わず心の中で確認する。
「……え? 今日、私が市長?」そんな錯覚を起こすレベルの完全貸し切り状態だった。

足音がやたらと響く館内は、BGMよりも静か。体感的には「図書館以上、無人島未満」。外では台風が大暴れしているというのに、ここだけ時空が切り離されている。

そのせいか、職員さんたちの対応がもう異常にやさしい。丁寧、親切、フルサービスの三拍子。こちらが何か言う前に先回りしてくれる感じで、なぜか一日一組限定VIPみたいな扱いを受ける。――ところが、手続きも終盤に差しかかったその時、事件は起きた。

机の上に現れたのは、中国語入力用キーボード。……あ、無理。理解度ゼロ。画面の前で完全フリーズ。館内で一番静止しているのが、まさかの私だった。

するとそれを察した職員さんが、すっと寄ってきて、「大丈夫ですよ」と言わんばかりに代打入力。あまりにも自然で優しい介入に、心の中で拍手が鳴り止まない。おかげで手続きは驚くほどスムーズに完了。

結論——外は嵐、館内は静寂、対応は神、そして心はほっこり。台風の日の市役所、想像以上に平和だった。

市役所ミッションを無事に、しかも華麗にクリアし、「よし、あとは帰るだけ!」と勝利の余韻に浸りながら出口へ――……その途中、ふとトイレに立ち寄ったのが運の尽きだった。

そこに鎮座していたのは、まさかの和式トイレ。

思わず二度見。いや、確認のために三度見。脳内では警報が鳴り響く。「……タイムスリップ装置、ここにあった。」

最後に遭遇したのはいつだろう。記憶をたどっても、もはや年代が曖昧になるレベルの懐かしさ。一瞬だけ、自分に問いかけてみる。「……チャレンジ、する?」しかし即座に現実が追いつく。膝への信頼度:ゼロ。姿勢の安定感:ゼロ。成功率:限りなくゼロ。

脳内シミュレーションを高速で回した結果、導き出された結論はひとつ。「今回は撤退が最適解。」

というわけで、何事もなかったかのように静かに退室。用は足していないが、妙な達成感と動揺だけはしっかり持ち帰ることになった。


帰る前、時差ボケが限界突破し、体内時計は完全にクラッシュ。脳は台湾、体はベッド、そして胃袋だけがリアルタイムNY時間で稼働中というカオス状態だった。

そんな中、唐突に鳴り響く内部アラート。「……ご飯くれ。」しかもタイミングは絶妙に中途半端。今さら重いものは微妙、でも空腹はガチ。どうする、俺。そのとき視界にスッと現れた文字——サイゼリヤ。日本ではおなじみらしいが、私にとっては完全なる初対面、新キャラ参戦である。

「安いって噂は聞いたことあるし…まあ、軽くね?」と、余裕ぶって入店。完全になめていた。そして料理を一口。…………え?うまッッ!!!

脳が一瞬フリーズ。外は台風で暴風雨、世界は荒れているのに、口の中だけ突然イタリアの快晴。オリーブ畑と青空が見えるレベル。

その瞬間、心の声が全力で叫ぶ。「この値段、バグってない???」コスパの概念が音を立てて崩壊し、満足度ゲージは一気にMAXへ。まさか台湾旅行の終盤、しかも台風の日に、初サイゼリヤで感動イベントが発生するとは夢にも思わなかった。

予想外の伏兵、強すぎる性能。
サイゼ、恐るべし。

マンションに戻り、「Free Wi-Fiあるし今夜は仕事だ!」とやる気満々でPCを起動。……が、現実は残酷だった。ページは開かない。永遠に開かない。

回線速度は牛どころかカタツムリが休憩しながら進むレベル。動画は夢、メールは幻。もはや「インターネット(仮)」である。他に手段もなく、選択肢はただ一つ。

低速を受け入れ、心を無にする。

クリック → 待つ。
クリック → 瞑想。

外は台風ビュンビュン、部屋はWi-Fiトロトロ。こうして私は「外出禁止」と「仕事禁止」を同時にくらい、待つことだけに全振りした一日を静かに終えたのであった。

2025年11月17日月曜日

10/21/2025 台湾帰省旅行 五日目・松山市 - Taiwan Homecoming Trip: Day Five - Songshan District

 

台湾に来て五日目。外は台風が本気モードに入り、風は唸り、雨は叩きつける――どう見ても「今日は大人しくしていましょう」と天気が語りかけてくる状況だった。普通なら外出を即断で諦めるレベルである。

ところが念のため市役所に連絡してみると、返ってきた答えはあっさり一言。「通常どおり開いてますよ」。え、開いてるの?この嵐の中で?

こうなると話は早い。用事がある以上、行かない理由は消えた。覚悟を決め、実家のある「松山市」へ向かうことにする。まさか台湾滞在五日目に、台風直撃×役所ミッションというイベントが待っているとは思ってもみなかった。

天気は最悪、展開は予想外。でも、やるべきことはやる。こうして、台風に背中を押される形で、少々ハードな一日が静かにスタートしたのだった。


「松山市」へ向かうその途中、まずは作戦会議――いや、腹ごしらえだ。立ち寄ったのは、雙連駅(Shuanglian)近くにある 「雙連街魯肉飯」。この台風コンディションで動き回るには、エネルギー補給が最優先である。

外は相変わらずの横殴りの雨。だが店内に一歩入ると、そこは別世界。湯気の立つ魯肉飯が目の前に置かれた瞬間、体も気持ちも一気に緩む。温かいご飯と甘辛い豚肉が胃に落ちていくたび、「よし、まだ戦える」と静かにHPが回復していくのが分かる。

嵐の中での移動前に、ここでひと息。魯肉飯は単なるランチではなく、台風ミッション前の回復アイテムだった。英気を養い、次の目的地へ向かう準備は万端である。


ここで密かに、いや正直に言えばかなり楽しみにしていたのが 鶏肉飯(ジーローハン) だ。丼の上には、ほどよく味付けされた鶏肉が惜しみなくのせられ、見た目は実にシンプル。だが、ひと口いった瞬間に評価は一変する。

あっさりしているのに、旨みがやけに深い。派手さはないのに、しっかり記憶に残る。口の中で静かに主張してくるこの感じ、「控えめだけど実力派」という言葉がぴったりだ。

台湾グルメといえば魯肉飯(ルーローハン)が圧倒的な知名度を誇るが、この鶏肉飯は決して二番手ではない。むしろ「なぜ今まで気づかなかった?」と自分に問いかけたくなるレベル。主役顔はしていないのに、気づけば印象を全部持っていく――そんな一杯だった。

派手さは不要。静かに美味い。これは胸を張っておすすめできる、台湾ごはんの実力者である。

美味しそうなメニューが並びすぎていて、気づけば完全に頼みすぎゾーンへ突入していた気もする。「まあ、残したら残したで…」と一瞬よぎったその弱気は、料理が運ばれてきた瞬間に消滅。結果、すべてきっちり完食である。胃袋、よくやった。

そして最後のトドメは会計。これだけ食べて、合計 600NT$。日本円や米ドルに換算すると、だいたい20ドル前後。……え、計算合ってる?

ボリューム、味、満足感、すべてがフル装備なのにこの価格。もはや「安い」というより、「申し訳なくなる」レベルのコストパフォーマンスだった。台湾グルメの底力を、胃と財布の両方で思い知らされる瞬間である。

頼みすぎたと思った自分を、心の中で全力で許した。


美味しいランチで胃袋も心も満たされ、さっきまでの台風テンションはどこへやら。気づけば気持ちはすっかり前向きに切り替わっていた。やはり、うまい飯は最強のメンタル回復薬である。

ひと息ついたところで、次の目的地へ向かう時間だ。移動手段はバスを選び、そのまま 松山市役所 へ一直線。窓の外を流れる街並みをぼんやり眺めながら、食後特有の落ち着いた時間が静かに流れていく。さっきまでは「台風の中で役所か…」と思っていたはずなのに、不思議と気分は軽い。

こうして、腹ごしらえで整えた心身とともに、次の用事へ向けたスイッチをしっかり入れ直す移動となった。

ここでひとつ、台湾のバス事情について触れておきたい。

まず褒めるべき点から言うと、時間どおりに来るし、Easy Card(悠遊カード) があれば乗車は驚くほどスムーズ。迷う要素はほぼゼロで、実に便利だ。

――ただし、実際に乗ってみると話は変わる。

発進は力強く、ブレーキは容赦なく、カーブでは遠慮という概念が存在しない。気分はもはや「公共交通」ではなく、軽めのアトラクション。油断すると体が持っていかれるレベルで、自然と手すりを握る力が強まる。

しかもこれはたまたま当たった一台だけの話ではない。台湾滞在中に乗ったバス、全部このノリだった。つまり、これは個性ではなく文化なのだろう。

便利さは文句なし。その代わり、ちょっとしたスリルもセットで付いてくる。台湾のバスは、移動手段であると同時に、思いがけず「体感型コンテンツ」でもあった。


バスに揺られること約30分。スリル付き移動を乗り越え、目的地の 「松山区役所」 に無事到着した。ここからは観光モード完全終了、現実対応モードへの切り替えである。

中では、いくつもの用事が待ち構えており、手続きに確認、確認に手続きと、気づけば頭をフル回転させっぱなし。想像していた以上にやることが多く、なかなか手強い時間となった。

派手さもワクワクもないが、こういう場面こそ旅の裏側。観光地では見えない「生活の顔」と向き合いながら、一つひとつ現実的なタスクを片付けていく。その過程で自然と背筋が伸び、気持ちも引き締まっていくのを感じた。

楽しいだけじゃない。この時間もまた、台湾に“戻ってきた”実感をくれる、大事なひとときだった。


市役所の中を歩いていると、ふと視界に飛び込んできたのが、婚姻届を提出しに来た人たち専用と言わんばかりの、やけに華やかな一角だった。役所とは思えないほど明るく、可愛らしく、装飾は完全に本気モード。ここだけ空気が一段階ポップである。

書類と番号札の世界に突然現れるその空間は、もはやフォトスポット。「はい、こちらで幸せを背景に記念撮影どうぞ」と言われている気分になる。実際、ここで写真を撮れば、人生の節目の記録であると同時に、普通にインスタ映えも狙えそうだ。

堅いイメージの市役所に、こんな柔らかくて前向きな場所が用意されているとは少し意外だった。手続きの場でありながら、ちゃんと“お祝いの気持ち”も忘れない。そのさりげない配慮に、思わずほっこりさせられる一角だった。


市役所でのあれこれを無事にクリアし、肩の力がふっと抜けたところで、そのまま向かった先が近くの夜市だった。昼間は書類と確認事項に追われていた分、今度はちゃんと気分転換をしなければならない。

訪れたのは、地元の人たちからも支持が厚いという 「饒河街觀光夜市(Raohe Night Market)」。役所の静かな空気から一転、屋台の明かり、人の波、食欲を刺激する匂いに包まれ、一気にスイッチが観光モードへ戻っていく。


――が、現実はそう甘くなかった。夜市に到着してみると、台風の影響は想像以上。いつもなら屋台の明かりと人の熱気であふれているはずの通りは、シャッター率高めの静かな空間になっていた。

営業している屋台はぽつぽつと点在する程度で、人影もまばら。あの「どこを見ても食べ物、どこを歩いても人」という夜市特有のエネルギーは、すっかり姿を消している。むしろ静かすぎて、「本当にここ、夜市だよね?」と確認したくなるほどだ。

楽しみにしていただけに、その落差はなかなかのもの。台風の力を改めて思い知らされつつ、活気を失った夜市の風景が、いつも以上に寂しく胸に残った。

夜市の静けさに少し肩を落としつつ、次に向かったのは、従兄が運営している歯科診療所だった。実はここでひとつ仕込んでいたことがある――台湾に来ていることを、彼には一切知らせていなかった。今回は完全なるノーアポ、ガチのサプライズ訪問である。

当然、受付では一瞬フリーズ。「ご予約は……?どなたでしょうか……?」極めて正しい反応だ。私も何食わぬ顔で立っているしかない。

しばらくして奥から出てきた従兄は、私の顔をじっと見つめ、数秒の沈黙。「あれ……?」次の瞬間、表情が一気に切り替わり、驚きがそのまま顔に浮かんだ。そう、気づいたのだ。

実に約20年ぶりの再会。こんな形で、こんなタイミングで、しかも診療所で再会するとは誰が想像しただろう。驚きと懐かしさが一気に押し寄せ、時間が一瞬で巻き戻ったような感覚になった。


そして、次に向かったのは――いよいよ台湾にある私の実家だった。この家に戻るのは、実に44年ぶり。数字にすると一気に重みが出る。

家の前に立った瞬間、胸に込み上げてくるものがある……はずだった。だが実際に最初に浮かんだのは、感慨でもノスタルジーでもなく、極めて現実的な疑問だった。「……あれ? こんなに外観、きれいだったっけ?」

記憶の中にある家よりも明らかに整っていて、どこか新しい。長い年月の風化を想像していた分、その“若返りっぷり”に戸惑ってしまう。まるでリフォームされ、別の人生を歩んできたかのような佇まいだ。

懐かしさが押し寄せる前に、まず驚きが先に立つ。44年ぶりの帰還は、記憶との再会というより、思い出が現実にアップデートされる瞬間だった。時間の流れと変化を、静かに、しかしはっきりと感じさせられるひとときである。

44年ぶりに実家のアパートへ一歩足を踏み入れた瞬間、時間のフタが一気に開いた。懐かしさが波のように押し寄せ、胸の奥がぎゅっと詰まる。空気の匂い、壁の距離感、建物全体の気配――そのどれもが、言葉より先に幼い頃の記憶を呼び覚ましてくる。

そんな中、ふいに思い出したのは、子どもの頃に感じていた“理由のわからない怖さ”だった。アパートの奥にある一室。なぜかそこだけは近づくのが怖くて、用もないのに避けて通っていた。何があったわけでもない。理由も覚えていない。それでも当時の自分にとっては、確かに越えてはいけない境界線だった。

今あらためてその記憶をなぞると、恐怖はもう残っていない。ただ、あの頃の自分の小さな世界と、その中で必死に感じていた感情が、やけに愛おしく思えてくる。懐かしさに包まれながら、思わずこぼれたのは驚きではなく、静かな笑みだった。


アパートの中で記憶に身を委ねていると、今度は現実のほうからノックが入った。同じ建物に住んでいるという従弟が、わざわざ顔を出してくれたのだ。彼と向き合うのは、実に約20年ぶり。時間の数字が続く一日である。

突然の訪問に一瞬驚きつつも、扉を開けた瞬間、空気はすっと和らいだ。見た目は変わっていても、声や仕草のどこかに、確かに知っている面影が残っている。その不思議な感覚に、言葉が出るまで少し間があった。

「久しぶり」という一言の重みが、20年分の時間を静かに埋めていく。派手な感動ではないが、じんわりと胸に染みる再会だった。長い年月を経ても、こうして自然に向き合えること自体が、何よりの証なのだと思えたひとときである。




ひとまず、この日のミッションはすべて無事に完了。ようやく肩の力が抜け、深く息をつける状態になった。台風、役所、再会――なかなか濃度の高い一日だっただけに、この解放感はひとしおである。

帰る前にもう一度 雙連駅 へ戻り、駅近くにある 「莊家班麻油雞」 で夕食をとることにした。今日の締めくくりに選んだのは、体に染みる温かい料理。慌ただしく動き回った一日だからこそ、ここでは急がない。



私が選んだのは、店の看板メニューにして一番人気だという 「麻油綜合」。丼の中には、鶏のさまざまな部位が遠慮なしに詰め込まれ、見た瞬間から「これは本気だ」と伝わってくる一杯だ。

立ち上るのは、麻油(ごま油)の香ばしい香り。スープをひと口すすると、そのコクが麺にしっかり絡み、体の芯まで染み渡っていく。さらに驚くのは具材の量。内臓系も含めて「サービス精神、振り切ってません?」と言いたくなるほど惜しみなく入っていて、食べ応えは文句なし。

これで価格は 220NT$。米ドルにすると、だいたい7ドル前後。このボリューム、この満足感でこの値段――計算が合わないほどのコストパフォーマンスだ。

一日の終わりに、体も心もきっちり満たしてくれる。そんな役目を完璧に果たしてくれた、締めにふさわしい一杯だった。

振り返ってみれば、今日は予定していた用事をきちんとこなし、そのうえ美味しい食事まで楽しめた、かなり満足度の高い一日だった。夜市が台風の影響でほぼお休み状態だったことだけは少し心残りだが、それを差し引いても十分に濃い時間を過ごせたと思う。

ただ、気持ちよく一日を締めたいところで、どうしても頭をよぎるのが明日の天気だ。予報では台風の影響は今日よりさらに強まるらしく、このままいけば店や施設が次々とクローズする可能性も高い。そうなると、明日の予定は白紙――なんて展開も十分あり得る。

達成感と不安が同時に居座る、少し落ち着かない夜。
「まあ、明日は明日の風が吹くか」と自分に言い聞かせつつ、台風の行方とともに、次の一日を静かに待つことにした。