台湾に降り立った私は、時差ボケと高揚感をごちゃ混ぜに抱えながら、今回の宿泊先の新北市「淡水(たんすい)」へ一直線。迷う暇もなくタクシーに乗り込み、車窓から流れていく台湾の街並みを眺めます。
空港から淡水までは約1時間弱。台北市内からMRTで45分ほどというアクセスの良さもあって、淡水は定番観光地として知られていますが、実はそれだけじゃない。近年は都市開発がぐっと進み、「住みたい街」としても静かに、しかし確実に注目度が上昇中なのです。
歴史の香りが残る街並みに、新しい建物や活気が自然に溶け込む――そんな“今どき淡水”へ向かう道中、旅はまだ始まったばかりだというのに、すでに胸は期待でパンパン。さて、どんな景色が待っているのか。
タクシーが止まり、ドアが開いたその瞬間――目の前に現れた建物を見て、思わず二度見。
「……え? ここ? 高級マンションじゃない?」
正直に言うと、もう少し“それなり”の建物を想像していました。ところが現実は、想像を軽く飛び越えてくる洗練度。堂々たる外観、無駄のないデザイン、そして漂うゴージャス感。完全に想定外です。
一気にテンションが跳ね上がり、さっきまでの長旅の疲れはどこへやら。心はすでに絶好調。まさか「到着した瞬間」に、台湾の進化と豊かさを体感させられるとは――この旅、どうやら最初から本気で歓迎してくれているようです。
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| 部屋から見える淡水川の眺め |
今回泊まる部屋の窓を開けた瞬間、思わず「これは当たりだ」と確信しました。目の前には、台北市内へとゆったり流れていく大きな淡水川。その向こうには、建設中の巨大プロジェクト「淡江大橋」が堂々と姿を見せています。
地元の人に聞くと、この橋が完成すれば、桃園空港までの移動時間はなんと約30分。「便利になる」というレベルを軽く超えた話で、これを聞いた瞬間、淡水エリアがなぜここまで注目されているのか、一気に腑に落ちました。
目の前に広がる美しい川の景色と、未来へ向かって伸びていく建設中の橋。その両方を同時に眺めながら、台湾――そして自分の故郷が、今この瞬間もものすごいスピードで進化していることを、静かに実感しました。
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| マンションから淡水駅まで出ているシャトルバス |
部屋で一息つく間もなく、次のミッションが発動。東京から到着する姉を迎えるため、台北市内の台北松山空港へ向かわなければなりません。
最寄りのMRT淡水駅までは、徒歩で30分オーバー。到着初日からそれはさすがに体力的にハードすぎる。そこで登場したのが、マンション管理会社が運行するシャトルバス。料金はなんと10NT$という良心価格。迷う理由はゼロです。
シャトルバスでサクッと淡水駅へ移動し、そのまま市内へ。長旅の疲れは確実に残っているはずなのに、台湾滞在はスタートから完全ノンストップ。どうやらこの旅、ゆっくりする気は最初からないようです。
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| MRTレッドラインの電車から見れる街並み |
MRTの乗り方も正直よく分からないまま、勢いで改札を抜け、なんとか電車に乗り込み成功。ひとまず一安心です。
走り出した車内から見える景色は、どれもこれも新鮮そのもの。眠気や疲れなんてどこへやら、目と頭はフル稼働。変わりゆく街並みを一つ残らず吸収しようと、気分はすっかり「走る故郷観察隊」。
高層ビル、住宅街、懐かしさの残る風景――次から次へと現れる光景に、気づけばずっと窓の外に釘付けでした。体力は確実に削られているはずなのに、それ以上に好奇心と興奮が勝ってしまう。
こうして松山空港までの道のりは、疲労感ゼロとは言えないものの、最後まで飽きることなく楽しめたのでした。
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| 松山空港の待合ロビー |
台北松山空港に到着し、多少の遅れはあったものの、無事に姉と合流。長旅の疲れと「ちゃんと迎えられた」という安堵感が一気に押し寄せ、ようやく一息――つけると思った、その瞬間でした。
姉の口から飛び出した一言。「どこにも寄らず、そのままマンション戻ろう。」
……え?さっきまでのMRT奮闘劇は何だったのか。乗り方も分からず、必死に乗り継いで迎えに来た努力は、ここでまさかの即Uターン決定です。
というわけで、私たちはあっさり電車を諦め、タクシーに乗り換え。今度は高速を使って、勢いよく淡水へ逆戻り。スタートから予想を裏切る展開の連続となり、「この旅、ただでは終わらなそうだ」という予感だけが、しっかりと残ったのでした。
姉と合流し、タクシーで淡水へ引き返す途中。車窓に、ふと見覚えのある赤いシルエットが飛び込んできました。思わず反射的に口から出たひと言。「あ、あれ……圓山大飯店だ!」
どうやらその声に、運転手さんが気づいてくれたようです。次の瞬間、タクシーはスーッとスピードを落とし、まるで「どうぞ、ゆっくり見てください」と言わんばかりに、景色を流してくれました。
慌ててカメラを構える私。赤く堂々と佇む圓山大飯店を、しっかりと写真に収めることができました。何気ない気遣いでしたが、その一瞬が胸にじんわりと沁みます。
淡水のマンションに戻り、「やっと休める……」と思ったのも束の間。長旅で疲労と眠気はすでに限界、意識はほぼ半分夢の中。それでも、休憩という選択肢は与えられませんでした。
なぜなら今回の台湾“帰省”には、絶対に避けて通れない最大ミッション――そう、「戸籍登録」という最重要タスクが待ち構えていたのです。
そのまま私たちは、新北市淡水の市役所へ直行。長時間フライトと移動を重ねた体は悲鳴を上げ、頭はふわふわ。それでも「今日やらねばならぬ」という使命感だけを頼りに、朦朧とした意識のまま前進します。
こうして、体力ゲージはほぼゼロ、しかし重要度はMAXという、なかなかハードな状況で、台湾帰省の最重要ミッションに挑むことになったのでした。
市役所での大仕事を無事に終えた瞬間、全身から一気に力が抜けました。「終わった……」
このひと言に、安堵と達成感のすべてが詰まっています。
その解放感を祝うべく、私たちが向かったのは、淡水駅前の眺め抜群レストラン「1010湘 淡水店」。まだ少し早めの午後5時から、堂々のディナータイム突入です。
大きな窓の外には、ゆったりと流れる淡水川。夕暮れに染まり始めた景色を眺めながらの食事は、ただのご飯ではありません。長旅、連続ミッション、睡眠不足――すべてで削られた体力を一気に回復させてくれる、まさに「命のディナー」。
1010 Hunan Cuisine Tamsui Branch
1010湘 淡水店
251, Taiwan, New Taipei City, Tamsui District, Zhongshan Rd, 8號9樓
美味しいディナーを終える頃には、長旅と連続ミッションの疲れがついに臨界点へ。意識はふわふわ、思考は低空飛行。正直に言うと、その後どうやって淡水のあのマンションに帰り着いたのか、記憶はほぼ残っていません。
気づいたら「帰っていた」。それだけは確かです。人間、限界を超えると、移動の記憶ごと消えるらしい。
意識朦朧のまま戻っため、その後の記憶はほぼ白紙。……だったはずなのですが、翌朝スマホの写真フォルダを開いて、すべてを悟りました。
そこには、夜中にコンビニへ行き、ヤクルトを買っている決定的証拠写真が一枚。どうやら私は、眠気と疲労の底でなお「ヤクルト補給」というミッションを遂行していたようです。
そして、さらに衝撃だったのがそのサイズ感。写真右のボトルですら、日本の標準サイズより余裕で1.5倍はありそうなのに、中央にはもはや凶器レベルの特大ボトルが堂々と鎮座。推定3倍サイズです。
極限まで疲れ切った私を夜中に突き動かした原動力――それは理性でも計画でもなく、「巨大ヤクルトを求める本能」だったのかもしれません。
35年ぶりの台湾初日は、記憶を失い、ヤクルトを得て、完全終了。人間、限界を超えても、腸内環境だけは守ろうとするものなのですね。









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