高雄二日目の朝。空を見上げると、台風の接近による影響でどんよりとした曇り空が広がっていた。さらに気温は30℃を超え、湿気がまとわりつくような蒸し暑さで、まるでサウナの中にいるような感覚すら覚える。決して快適とは言えない天候ではあったが、この日の夕方には台北へ戻る予定があるため、それまでの限られた時間で高雄をできるだけ見て回ることにした。空が暗くても、暑さが厳しくても、せっかく訪れた高雄を楽しまない手はない。そんな思いとともに、街へと歩き出す一日が始まった。
最初に向かったのは、ホテルのすぐ近くにある「The Pier-2 Art Center」だった。距離的にはまるで“歩いてすぐ”という感覚で、気軽な気持ちで見て回り始めたのだが、実際に歩き出してみると想像以上に広く、まるでアートの迷路に足を踏み入れたような気分になった。そんな予想外のスケールに包まれながら、高雄二日目は静かに、しかし少しワクワクしながらスタートした。
思わず「これもアートと言っていいのだろうか?」と疑ってしまうような作品(らしきもの)にも出会った。作品なのか、ただのユーモアなのか、その境界が分からなくなり、自分の感性のほうが試されているような気分になる。それすらも楽しめてしまうのが、「The Pier-2 Art Center」の不思議な魅力だった。
高雄湾を背に立ちながら、展示されているアート作品の横にそっと並んでみると、まるで自分自身も作品の一部になったような気分になった。ポーズを決めた瞬間には、「今だけはアートの側に立っている」と勝手に思い込み、鑑賞者という立場を離れて作品と一体化したような感覚に包まれる。誰に頼まれたわけでもないのに、自分なりに“展示の仲間入り”を果たした、不思議で楽しいひとときだった。
この一帯は再開発が進んでおり、歩いているだけで洗練された雰囲気を感じられる、とてもおしゃれなエリアになっていた。まるで横浜の赤レンガ倉庫を思わせるようなスタイリッシュな景観が広がり、倉庫風の建物が立ち並びながらも、どこかモダンで魅力的な空気をまとっている。街全体が「新しく生まれ変わった」と語りかけてくるような活気があり、思わず姿勢まで少し背筋が伸びるような場所だった。
作品の意図までははっきりと理解できなかったものの、港には目を引くほど巨大なアート作品がいくつも展示されていた。その圧倒的な存在感は、解説がなくても思わず立ち止まってしまうほどで、意味よりもまずインパクトが胸に飛び込んでくる。たとえ内容を深く読み解けなくても、「これはただならぬ作品だ」と感じさせる力強さがあり、視線を奪われずにはいられなかった。
「The Pier-2 Art Center」を一通り見て回ったあと、ライトレールに乗って「Dream Mall」へ向かうことにした。そこでまず驚かされたのは、駅の線路周辺一面に芝生が敷かれていたことだ。レールという無機質なイメージとは対照的に、鮮やかな緑が広がり、とても心地よい景観を作り出していた。「本当に電車が走る場所なのだろうか」と思ってしまうほどおしゃれで、高雄ならではの工夫とセンスを感じる空間だった。
ライトレールに揺られて約20分。車窓の外には、高雄湾周辺の再開発エリアが広がり、建設中の建物や工事の風景が次々と目に入ってきた。まるで「未来の街が少しずつ形づくられている最中」を眺めているような気分で、これからどんな姿へ変わっていくのだろうと想像しながら進む時間は、小さな“未来見学”のようでもあった。
Dream Mall/ Uni-president Dept. Store Kaohsiung
夢時代購物中心/統一時代百貨高雄店
No. 789號, Zhonghua 5th Rd, Cianjhen District, Kaohsiung City, Taiwan 806
「Dream Mall」に到着してまず驚かされたのは、その規模の大きさだった。6階建ての巨大なモールの中に、数えきれないほどの店舗がぎっしりと詰まっており、歩き始めてすぐに「1日で制覇?それ、夢(Dream)です。」と感じるほどだ。活気に満ちた館内はどこも人でにぎわい、まさにショッピングの巨大テーマパークのような雰囲気。アメリカの閑散としたモールの姿を思い浮かべながら、この勢いをぜひ見習ってほしいと感じるほどエネルギーにあふれた場所だった。
モール全体はまるで近未来都市のような雰囲気に包まれており、ガラスや光のデザインが織りなす空間はどこを歩いても新鮮さがあった。館内を進むたびに新しい景色が現れ、次は何が待っているのだろうとワクワクさせられる。どれだけ見て回っても飽きる気配はなく、思わず長居したくなるほど魅力に満ちた場所だった。
「Dream Mall」をあとにして、次に向かったのは高雄の代表的な観光スポットである「龍虎塔」だった。本来であれば電車でも行ける場所なのだが、台北へ戻る電車の時間が近づいていたため、今回は時間を優先してタクシーで移動することにした。限られた時間の中で、少しでも多く高雄を楽しもうとする、急ぎ足の観光となった。
「龍虎塔」に到着すると、蓮池潭のほとりにそびえ立つ2本の塔が目に飛び込み、思わず足が止まった。その堂々とした姿は遠くから見ても迫力があり、近づくにつれてさらに圧倒される存在感を放っていた。まさに高雄を象徴するランドマークといえるほど見応えがあり、到着した瞬間から一気に気分が高まる光景だった。
Dragon and Tiger Pagodas
龍虎塔
No. 9號, Liantan Rd, Zuoying District, Kaohsiung City, Taiwan 813
池に沿って歩いていくと、続いて目に入ってきたのが「北極亭玄天上帝神像」だった。その姿は龍虎塔に劣ることなく堂々としており、圧倒的な迫力を放っていた。まるで蓮池潭一帯が巨大なスケールの名所を次々と展開しているかのようで、歩みを進めるたびに驚きが増していくような感覚だった。
これらの建造物を建立したのは、池の前に位置する「左營城邑慈濟宮」だという。壮大な外観から長い歴史を想像していたが、完成は1976年と意外にも新しい時代のものだった。見た目の迫力やスケールからは想像できないほど“若い”建造物でありながら、堂々たる存在感を放っているのが印象的だった。
楽しかった高雄での時間を終え、High Speed Railに乗って台北へ戻ることにした。移動時間はおよそ3時間。数字だけを見ると少し長く感じられるが、座席でゆっくりと体を休められることを思えば、その時間はむしろ心地よいものだった。静かで快適な車内に身を預けながら揺られていると、“移動”というより“リラックスのひととき”に近く、まったく苦に感じることのない帰路となった。
マンションの最寄りである淡水駅に到着した途端、タイミングを狙ったかのように大雨が降り始めた。天気予報どおり、ついに台風が到来したようだ。この状況を前に、今後の台湾旅行の予定がどうなるのか不安がよぎり、先行きに少し暗雲が立ち込める思いがした。
長旅の疲れに加え、大雨という状況が重なり、この日の私はすっかり気力を失ってしまった。外へ夕食を食べに出かける元気もなく、結局、駅前でテイクアウトできるお寿司で簡単に済ませることにした。寿司を広げながらふと、「『魚』という字を三つ並べた漢字は何と読むのだろう?」という疑問が頭をよぎる。疲労と雨に包まれた一日の締めくくりに、そんな小さな謎だけが心に残ったまま、「ではまた明日」と静かに一日を終えた。












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