台湾に来て五日目。外は台風の影響で激しい風と雨が続き、まさに最悪といえる天気だった。本来なら外出をためらう状況だったが、市役所に連絡して確認したところ、この悪天候でも通常どおり開いているとの返答を受けた。そこで用事を済ませるため、私の実家がある「松山市」へ向かうことにした。台風の中での移動という思いがけない展開となったが、やるべきことを果たすために足を進める一日が始まった。
「松山市」へ向かう途中、まず立ち寄ったのは「雙連駅(Shuanglian)」近くにある「雙連街魯肉飯」だった。台風の中で移動する前に、ひと息ついて腹ごしらえをしておこうと考え、ここでランチをとることにした。暖かい魯肉飯で少し元気を取り戻しつつ、次の目的地へ向かう準備を整える時間となった。
ここで特に楽しみにしていたのが「鶏肉飯(ジーローハン)」だった。ご飯の上に味付けされた鶏肉がたっぷりとのっており、ひと口食べるとあっさりしながらも驚くほどしっかりとした旨みが広がる。台湾といえば「魯肉飯(ルーローハン)」が有名だが、この鶏肉飯もそれに劣らない美味しさで、思わずその存在を見直してしまうほど。控えめな見た目ながら確かな実力を感じられる一品で、心からおすすめしたくなる味だった。
美味しそうなメニューが多かったため、つい頼みすぎてしまったような気もしたが、結果的にはすべてきれいに完食した。そして会計をして驚いたのは、これだけ注文して合計がわずか600NT$(米ドルで20ドルほど)だったことだ。このボリュームと満足感でこの価格とは、あまりにも安すぎるのではないかと感じてしまうほどのコストパフォーマンスだった。
美味しいランチで満足感に包まれたあと、気持ちもすっかり前向きになり、次の目的地へ向かうことにした。移動手段にはバスを選び、そのまま「松山市役所」へ向かって出発した。食後の落ち着いた時間とともに、次の用事へ向けて気持ちを切り替える移動となった。
ちなみに台湾のバスについてひと言触れておきたい。時刻どおりに到着し、Easy Card(悠遊カード)さえあれば乗車も簡単でとても便利だという点は申し分ない。しかし乗ってみて気づいたのは、その運転が驚くほど荒いということだ。発進やブレーキ、カーブの動きが力強く、まるでスリルのある乗り物に乗っているような感覚になる。しかもこれは偶然ではなく、私が台湾で乗ったどのバスにも共通していた印象だった。便利さと同時に、思わぬ迫力も味わうことになった交通手段である。
バスに揺られて約30分ほどで、目的地である「松山区役所」に到着した。ここではいくつか済ませなければならない用事があり、その手続きや確認に追われる時間は思った以上に大変だった。観光とは違う現実的なタスクに向き合う場面となり、気持ちが引き締まるひとときとなった。
市役所を見て回ると、婚姻届を提出しに来た人たちのために、華やかに飾り付けられたスペースが設けられているのが目に入った。明るく可愛らしい装飾が施されており、まるでフォトスポットのような雰囲気で、ここで写真を撮れば記念としてだけでなく、インスタ映えする一枚になりそうだと感じられる場所だった。
市役所での用事を無事に済ませたあと、そのまま足を向けたのは近くにある夜市だった。訪れたのは、地元の人たちにも人気があるという「饒河街觀光夜市(Raohe Night Market)」。書類手続きに追われていた昼間とは気分を切り替え、にぎやかな夜市の雰囲気へと身を移すことにした。
しかし夜市に到着してみると、台風の影響は想像以上に大きかった。屋台の多くが営業しておらず、人影もまばらで、本来のにぎわいはすっかり姿を消していた。楽しみにしていただけに、その静けさがひときわ残念に感じられる光景だった。
夜市を後にし、次に向かったのは従兄が運営している歯科診療所だった。実は私が台湾に来ていることを彼にはまったく知らせておらず、今回は完全なサプライズ訪問となった。突然訪れたため、受付では「ご予約は?どなたですか?」と戸惑われてしまったが、しばらくして私の顔を見つめた従兄が気付き、驚いた表情を浮かべた。なんと、彼と会うのは約20年ぶりの再会だった。思いがけないタイミングで実現した再会に、驚きと懐かしさが入り混じるひとときとなった。
そして次に向かったのは、いよいよ台湾にある私の実家だった。なんと、この家に戻るのは実に44年ぶり。家の前に立った瞬間、長い年月を経て帰ってきたという実感が湧いてくる——はずだったのだが、まず頭に浮かんだのは別の疑問だった。「以前の記憶と比べて、外装がずいぶんきれいになっているのではないだろうか?」思い出の中にある家とはどこか印象が違い、まるでリフォームされて新しく生まれ変わったかのような姿に驚かされる。44年ぶりの再訪は、懐かしさとともに予想外の変化を感じる瞬間となった。
44年ぶりに実家のアパートへ足を踏み入れると、懐かしさが一気に押し寄せ、胸がいっぱいになった。空気の匂いや建物の雰囲気が、幼い頃の記憶を次々と呼び起こしていく。その中でふと思い出したのは、子どもの頃、アパートの奥にある部屋がなぜか怖くて、ほとんど近寄れなかったという不思議な記憶だった。理由は覚えていないものの、当時の自分が感じていた小さな恐怖と、それを避けていたことが鮮明によみがえり、懐かしさとともに笑みがこぼれる瞬間となった。
アパートの中で懐かしさに浸っていると、同じ建物に住む従弟が訪ねてきてくれた。彼とも顔を合わせるのは、およそ20年ぶりの再会である。思いがけない訪問に一瞬驚きつつも、長い年月を経て再び顔を合わせたことに、じんわりとした感慨がこみ上げるひとときとなった。
ひとまず今日の用事はすべて無事に終わり、少し肩の力が抜けた気持ちになった。帰る前に再び「雙連駅」へ戻り、駅の近くにある「莊家班麻油雞」で夕食をとることにした。長い一日を締めくくる食事として、温かい料理をゆっくり味わいながら過ごす時間にしようと思った。
私が注文したのは、お店で一番人気だという「麻油綜合」だった。鶏のさまざまな部位が一杯に詰め込まれた麺料理で、麻油(ごま油)が香る風味豊かなスープと麺の相性は抜群。さらに、内臓系の具材が「これでもか」と思うほどたっぷりと入っており、食べ応えも十分だった。価格は220NT$で、米ドルに換算するとおよそ7ドルほど。ボリュームと満足感を考えると、非常にお得な一杯だった。
今日は予定していた用事を一通り済ませることができ、美味しい食事も楽しめたため、とても満足のいく一日となった。夜市が営業していなかったことだけは少し心残りではあるものの、充実した時間を過ごせたと感じている。ただ、気がかりなのは明日の天気だ。台風の影響は今日よりもさらに強まる見込みで、このままでは多くの店や施設が営業を休止してしまう可能性があり、明日の予定がどうなるのか不安が残る夜となった。











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