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サーマッラーの考古遺跡(Samarra Archaeological City) |
サーマッラー(Samarra)は、イラク中部ティグリス川沿いに位置する9世紀のイスラム王朝・アッバース朝の都の遺跡です。わずか56年間という短期間ながら、アッバース朝の新たな首都として繁栄し、壮大な宮殿、モスク、軍事施設などが建設されました。都市遺構の広さと保存状態の良さ、そして独特の建築様式が後世のイスラム建築に大きな影響を与えた点が評価され、**2007年にユネスコ世界遺産(文化遺産)**に登録されています。
歴史
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836年:アッバース朝第9代カリフ・ムウタスィムが、バグダードに代わる新首都としてサーマッラーを建設。
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9世紀半ば:壮大な宮殿群や世界最大級のモスクが建設され、数十万人が暮らす都市に成長。
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892年:首都が再びバグダードに戻され、サーマッラーは急速に衰退。
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以降、都市機能は失われたが、当時の都市構造がほぼそのまま残された貴重な遺跡となる。
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マルウィヤ・ミナレット(Malwiya Minaret) |
主な見どころ・構成要素
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マルウィヤ・ミナレット(Malwiya Minaret)
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サーマッラー大モスクに隣接する、**らせん状の塔(ミナレット)**で高さ約52m。
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外部の螺旋スロープで頂上まで登ることができる独特の構造。
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イスラム建築の中でもきわめて珍しい形態で、象徴的な存在。
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サーマッラー大モスク(Great Mosque of Samarra)
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建設当時は世界最大級のモスク(長さ約240m、幅約160m)。
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現在は遺構のみだが、当時の巨大な礼拝空間や壁面装飾の一部が確認されている。
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カリフの宮殿群(Dar al-Khilafa)
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ムウタスィムら歴代カリフの居所として建てられた広大な宮殿。
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水路や庭園を備えた「楽園(ジャンナ)」のような設計思想が反映されている。
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住居跡・街路網
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当時の計画都市としての面影が残り、イスラムの都市設計の貴重な例証。
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土とレンガによる建築技術がよく保存されている。
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世界遺産としての価値
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アッバース朝建築と都市計画の典型例
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大規模で計画的に設計された9世紀のイスラム都市として独自性が高い
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螺旋状ミナレットなど、イスラム建築史における革新的な試みを示す
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カリフの宮殿群(Dar al-Khilafa) |
現在の状況と課題
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遺跡の多くは未発掘または風化・劣化の危機にさらされており、ユネスコの「危機にさらされている世界遺産リスト」にも登録。
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政情不安、盗掘、都市拡張による破壊の危険性もある。
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国際社会の協力による保存活動が求められている。
アクセス
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所在地:イラク・サラーフッディーン県 サーマッラー市
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最寄り都市:バグダードから北へ約125km(車で約2〜3時間)
※現在は治安状況により、観光や調査活動には制限がある。
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サーマッラー大モスク(Great Mosque of Samarra) |
まとめ
サーマッラーは、9世紀のイスラム帝国が築いた壮大な都の姿を今に伝える貴重な都市遺跡です。特にマルウィヤ・ミナレットに代表される独特な建築様式と、広大で計画的な都市構造は、後のイスラム都市設計に大きな影響を与えました。戦乱による危機にある今こそ、その歴史的・文化的価値を守る努力が求められている世界遺産です。
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